「人間って不思議ですよね。絶対に幽鬼だと確信したくせに、同僚に明るく笑い飛ばされてしまうと途端に自信がなくなって……やっぱりただの人間だったのかなという気もしてきて」
「わかります、そんなものですよね」
香蘭に肯定してもらえてホッとしたのか、彼女の語り口はなめらかになった。
「同室の子は、逢引き説を唱えました。あ、この話、陛下には内緒にしてくださいますか?」
彼女が慌てて付け加えるので香蘭は「もちろん」とうなずく。
「名誉のために名前は伏せますが、この宮の護衛を務めるとある宦官はかなりのプレイボーイだそうで、あちこちの女官に手を出しているといううわさがあるんです」
この手の話はどこの宮にもあるもの。誰と誰が恋仲だとか、喧嘩別れをしてしまったとか。朱雀宮でいえば、焔幽と夏飛が相思相愛であるという説はものすごく根強い。そんなわけなので、彼女の話も信憑性は五分五分だろうか。
「つまり同僚の女性は幽鬼ではなく、恋人を待つ人間だろうと主張したわけですね」
寿安はうなずく。
「そう言われると、きっぱりとは否定できなくて。それに、そう考えたほうが恐怖もやわらぐので。恋人を待っていただけの女官を幽鬼と見間違えた、自分にそう言い聞かせました」
「わかります、そんなものですよね」
香蘭に肯定してもらえてホッとしたのか、彼女の語り口はなめらかになった。
「同室の子は、逢引き説を唱えました。あ、この話、陛下には内緒にしてくださいますか?」
彼女が慌てて付け加えるので香蘭は「もちろん」とうなずく。
「名誉のために名前は伏せますが、この宮の護衛を務めるとある宦官はかなりのプレイボーイだそうで、あちこちの女官に手を出しているといううわさがあるんです」
この手の話はどこの宮にもあるもの。誰と誰が恋仲だとか、喧嘩別れをしてしまったとか。朱雀宮でいえば、焔幽と夏飛が相思相愛であるという説はものすごく根強い。そんなわけなので、彼女の話も信憑性は五分五分だろうか。
「つまり同僚の女性は幽鬼ではなく、恋人を待つ人間だろうと主張したわけですね」
寿安はうなずく。
「そう言われると、きっぱりとは否定できなくて。それに、そう考えたほうが恐怖もやわらぐので。恋人を待っていただけの女官を幽鬼と見間違えた、自分にそう言い聞かせました」