(深謀遠慮の渦巻く後宮にあって、裏表のない人物は貴重ですから)
 希少価値のあるものは守るべきであろう。

 そんなわけで、蘭楊は皇帝側近から琥珀宮護衛担当にまたもジョブチェンジすることになった。
(雪寧さまの宮、朱雀宮、そして琥珀宮。私のように有能だとあちこちから請われ、ひとところに落ち着くことは叶わないものですねぇ)
 今回は自ら強引に押しかけるという事実を棚にあげ、香蘭はいつものように悦に入りながら琥珀宮へと続く美しい庭を歩いた。

「あぁ、蘭楊! やっとやっと、役に立ちそうな宦官が来てくれたわね」
 琥珀妃、甘月麗は香蘭を大喜びで迎えてくれた。綿菓子のようにふわりとした栗色の髪が甘く香り、上目遣いにこちらを見あげる髪と同色の瞳は宝石よりもなおまばゆい。山吹色の地に金糸の刺繍がほどこされた衣もセンスがよく、彼女によく似合っている。
(いつ見ても、完璧にかわいい方ですね)
 秀由が贔屓したくなるのもわかる、愛らしさだ。そして――。
「ねぇ蘭楊。幽鬼ごときにおびえて泣きベソをかく宦官たちを見た? 使えないうえに醜くて……あぁ、どうしてあんなゴミどもが私の宮の護衛だったのよ?」
(愛らしい顔に似合わない、この毒舌。これでこそ月麗さまですねぇ)
 ギャンギャンと騒ぐ彼女を香蘭は生温かい目で見守る。
「翡翠妃の護衛は優秀で勇敢だと聞くわ。陛下はあの女ばかり贔屓していないかしら」