焔幽の表情はますます険しくなる。彼は妖術師の存在をいまいち信じきれないでいるのだろう。彼らは裏で暗躍するのが生業。史実に華々しく登場したりしないので、それも仕方ないかもしれない。
「普通に推理をするなら、犯人は琥珀妃月麗さまに恨みのある人物ってことになりますうよね?」
 夏飛の言葉に焔幽は首を横に振る。
「とも言い切れないんじゃないか? 被害者は宦官ばかり。琥珀妃が狙いなら最初から彼女を襲えばよさそうだし」
「たしかに」
 夏飛も焔幽もそれきり黙ってしまった。いろいろと妙な事件なのだ。

「妖術師については、香蘭の知っている情報をもとに探っている最中だ。西方の国々では一般的な存在のようだな」
 焔幽の言う西方の国々というのは、瑞より西に位置する『(しょう)』や『(かい)』のことだろう。蘭朱の時代には辺境の蛮族程度の認識だったが、今やどちらもかなりの大国に成長していた。西大陸の影響を強く受け、瑞とは異なる独自の文化と風習を持っている。

「幽鬼をとらえることはできないので、妖術師の線から探るのが一番の近道でしょうね」
 言いながらも、香蘭はそう簡単ではないと思っていた。彼らは目的を果たすと、それこそ幽鬼のようにするりと消えてしまうのだ。
(相手は身を隠し暗躍する術を何十年、何百年と磨いてきたプロですからね)

「そうそう」
 夏飛が沈んだ声を出す。
「切羽詰まった現実的な問題がひとつありまして……」
「なんだ?」