「顔、あんなにかわいいのに。詐欺じゃないですか?」
 本気でがっかりしている様子がおかしく、香蘭と焔幽はクスクスと笑った。
「彼女があの顔でひとにらみすれば、幽鬼も逃げ出すと思うんですけどね」
 
 最初の事件の時点では三人とも、まだ笑って話をする余裕があった。白状すれば、幽鬼が犯人という説をどこかで疑っていたのだろう。たとえば、被害者の宦官と女官の痴情のもつれとか、なにか納得できるオチがあることを期待していた。妖術師の話題をあげた香蘭でさえそうだった。
 ところがだ。事件は一度きりでは終わらなかった。宦官たちが次々に幽鬼に襲われ、被害も少しずつ深刻化していく。とうとう、昏睡状態におちいり目を覚まさぬ者まで出てきてしまった。

「昏睡している被害者でもう四人目か。全員宦官、そして琥珀宮づきか」
 疲れた顔でこめかみをトントンと叩きながら、焔幽がつぶやく。
「警備をこれだけ強化しているのに、犯人は煙のように消えてしまって跡形も残らない。となると……」
 夏飛の言葉を香蘭がつなぐ。
「実行犯は本物の幽鬼。操っているのは妖術師。妖術師を雇っている者が真犯人でしょう」
 妖術師と真犯人がイコールである可能性も現時点では否定できないが。