ふらふらと現世を漂っているだけの幽鬼など、案外とか弱い存在なのだ。せいぜい人をびっくりさせることしかできない。だが、彼らに特殊な力を与えることのできる妖術師がいれば話は変わってくる。妖術師は幽鬼の持つ怨念を増大させ、化物へと作り変えてしまう。
 焔幽の眉間のシワはよりいっそう深くなる。
「妖術師……も実在するものなのか、俺にはわからぬが」
「しますよ。少なくとも私はひとり知っております」
 そして、その力が本物であることも目の当たりにした。
 といっても、見たのは香蘭ではなく蘭朱だが。七十年前までは妖術師はもっと一般的な存在で、作り話などとは誰も思っていなかった。
(時代の流れというやつでしょうか)
 だが、妖術はその名のとおり術なのだ。正しく継承し、鍛錬を積めば普通の人間でも会得できるもの。香蘭は妖術師がゼロになっているとは思わなかった。

「わかった、調べよう。香蘭、お前も知っている情報はすべて話してほしい」
「御意」
 七十年前だというところを軽くぼかせば必要な情報を彼に与えることは可能だろう。
「にしても」
 夏飛が憂鬱そうな顔で天井を仰いだ。
「幽鬼も妖術師も恐ろしいですが、僕は琥珀妃がもっとも恐怖ですよ」
「なにかあったのか?」
「さっさと退治しろ。私の身になにかあったらどうする気なのかと、えらい剣幕で怒鳴られまして」
 夏飛はおおげさに身震いし、自身の二の腕を抱く。