「新皇帝陛下の戴冠にともなう一連の儀式はすべて終わった。となれば次は……」
「そう、アレよ!」
陛下の寵を競い、宦官を味方に取り込み、ライバルに毒を送る。そんなあれやこれやで忙しい有力妃嬪たちとは違い、下級女官の生活なんて変化に乏しいもの。久しぶりの娯楽を前にして彼女たちの鼻息は荒い。香蘭の隣にいた詩清がアレの名を口にする。
「三貴人選出、ですね」
うおぉ~という謎の歓声があがる。
東大陸の中央部に大きな領土を持つ瑞の国。頂に立つ皇帝陛下は朱雀の化身であり、茶々連峰で暮らす数多の神仙を統べる存在とされている。
その瑞国皇帝陛下はつい半年ほど前に代替わりをしたばかりだ。彼のほかに九人いた皇子たちを出し抜き、玉座に座った新皇帝の名は焔幽という。まだ二十三歳、焔の字を持つその名に似つかわしくない冷えびえとした男だ。血の気の薄い白い肌、真冬の凍った湖を思わせる蒼い瞳、冷酷さがにじむ薄い唇。
(悪役顔!って感じでしたわね。まぁ、ものすごく遠目にしか拝見していませんけど)
香蘭の立場では、彼が目の前に来たら床に額をこすりつけなければならない。間近にその顔を眺める機会は生涯訪れないだろう。
(そのほうがありがたいですわ。うっかり惚れられてしまったら大変です)
香蘭がいつものように自惚れている間にも女官たちの楽しげな会話は続いている。
「すぐに皇后が決まるかしらね?」
「そう、アレよ!」
陛下の寵を競い、宦官を味方に取り込み、ライバルに毒を送る。そんなあれやこれやで忙しい有力妃嬪たちとは違い、下級女官の生活なんて変化に乏しいもの。久しぶりの娯楽を前にして彼女たちの鼻息は荒い。香蘭の隣にいた詩清がアレの名を口にする。
「三貴人選出、ですね」
うおぉ~という謎の歓声があがる。
東大陸の中央部に大きな領土を持つ瑞の国。頂に立つ皇帝陛下は朱雀の化身であり、茶々連峰で暮らす数多の神仙を統べる存在とされている。
その瑞国皇帝陛下はつい半年ほど前に代替わりをしたばかりだ。彼のほかに九人いた皇子たちを出し抜き、玉座に座った新皇帝の名は焔幽という。まだ二十三歳、焔の字を持つその名に似つかわしくない冷えびえとした男だ。血の気の薄い白い肌、真冬の凍った湖を思わせる蒼い瞳、冷酷さがにじむ薄い唇。
(悪役顔!って感じでしたわね。まぁ、ものすごく遠目にしか拝見していませんけど)
香蘭の立場では、彼が目の前に来たら床に額をこすりつけなければならない。間近にその顔を眺める機会は生涯訪れないだろう。
(そのほうがありがたいですわ。うっかり惚れられてしまったら大変です)
香蘭がいつものように自惚れている間にも女官たちの楽しげな会話は続いている。
「すぐに皇后が決まるかしらね?」