六 モグラ、幽鬼退治に駆り出される


 月が厚い雲に隠され、暗い夜だった。千華宮、焔幽の室。
 香蘭が淹れた茶を飲みながら夏飛の話を聞く。
「幽鬼に襲われた?」
 狐につままれたような顔で焔幽は目を瞬いた。
「幽鬼が出るといううわさなら私も聞きましたよ」
 香蘭も口を挟む。香蘭はあちこちの妃嬪たちの宮に顔を出しているが、数日前からそんな話題がよく出るようになった。そういえば先ほどの李蝶の宮の女官たちもそんなことを言っていた。

『ときおり、地面から幽鬼の血だらけの手が伸びてくる』
『庭の柳の木に、髪の長い幽鬼が逆さづりになっているそうで』
 耳にしたのは、そんな他愛のないうわさ話だ。
「いつものこと、と聞き流しておりましたが」
 幽鬼が出ただの出ないだのというネタは、毒にも薬にもならないので頻繁に流行するのだ。もちろん、真実であるケースも多いだろう。
(なにせ、ここは千華宮。この世を恨んで出てくる幽鬼がわんさかいても納得です)
 王位争いに敗れた者、無実の罪を着せられ断罪された者、毒殺、暗殺、大虐殺。血と死にまつわる話の宝庫だ。

 夏飛は弱った顔で後頭部をかく。
「僕もそう思ってましたよ。また流行り出したな~くらいにね! ところがですよ。今夜は実害が出たのです」
 夏飛の話によれば舞台は甘月麗の住まう琥珀宮。そこの護衛をする宦官が幽鬼に襲われ、顔を切りつけられたのだという。
「被害にあった宦官に会ってきましたが、たしかにひどい傷でした。自作自演ってことはまずないと思います」