焔幽は女に愛され、執着されるのを恐れている。そんなふうに見えた。彼は愛など求めない。そう直感したからこそ、香蘭は側近になることを承知してこうしてそばにいるのだ。
「ほぅ、気づかれていたか」
焔幽の声は静かだ。狼狽した様子も怒りに震えることもない。香蘭の刃物が確実に突き刺さったはずなのに。
「血のつながった公主さま方はあなたの前で〝女〟にならない。だからリラックスして過ごせるのですね」
焔幽はククッと肩を揺らす。
「本当に、お前は腹立たしいほど目端がきくな」
「性分なのです」
香蘭とて、別に彼の闇を暴きたくなどなかった。けれど雪寧と一緒にいる彼を見ていたら、なんとなく理解してしまったのだ。性悪な見方をすれば、彼は雪寧を愛しているわけではない。妹という存在に心安らぐから、だから彼女を大切にしているに過ぎない。
(それを愛と呼んでいいものか、難しいですね)
「その様子だと俺がこうなった理由も調査済みか?」
香蘭はゆるゆると首を横に振る。調べようとも、知りたいとも思っていない。むしろ聞いてしまったら、焔幽という人間との縁が決して切れぬものになってしまいそうで……香蘭は彼女にしては珍しく、惑うように瞳を揺らした。
「別に知りたくもないだろうが、聞け。俺がどういう人間なのか、知っておくのも側近の務めだろう」
香蘭は「はい」とは言わなかったが、彼は話し出す。
「たいした話でもない」
そう言う彼の唇は色を失い、かすかに震えていた。
「ほぅ、気づかれていたか」
焔幽の声は静かだ。狼狽した様子も怒りに震えることもない。香蘭の刃物が確実に突き刺さったはずなのに。
「血のつながった公主さま方はあなたの前で〝女〟にならない。だからリラックスして過ごせるのですね」
焔幽はククッと肩を揺らす。
「本当に、お前は腹立たしいほど目端がきくな」
「性分なのです」
香蘭とて、別に彼の闇を暴きたくなどなかった。けれど雪寧と一緒にいる彼を見ていたら、なんとなく理解してしまったのだ。性悪な見方をすれば、彼は雪寧を愛しているわけではない。妹という存在に心安らぐから、だから彼女を大切にしているに過ぎない。
(それを愛と呼んでいいものか、難しいですね)
「その様子だと俺がこうなった理由も調査済みか?」
香蘭はゆるゆると首を横に振る。調べようとも、知りたいとも思っていない。むしろ聞いてしまったら、焔幽という人間との縁が決して切れぬものになってしまいそうで……香蘭は彼女にしては珍しく、惑うように瞳を揺らした。
「別に知りたくもないだろうが、聞け。俺がどういう人間なのか、知っておくのも側近の務めだろう」
香蘭は「はい」とは言わなかったが、彼は話し出す。
「たいした話でもない」
そう言う彼の唇は色を失い、かすかに震えていた。