「違うな、女をかわいいと思ったこと自体が初めてだ」
焔幽はあくまでも期間限定の主。深入りする気などなかったし……だから先日の額飾りの件は見なかったことにした。
けれど、彼がその気ならばと香蘭は彼を見返した。頭の片隅で、まんまと彼の挑発にのってしまったことを後悔しながら。
「あなたが私に恋をする? それはありえないでしょう」
「なぜ断言できるのだ?」
「……陛下は公主さま方をとても大切になさっていますよね」
唐突に話題を変えた。焔幽はそう思ったかもしれないが、香蘭のなかでは同じ話題が続いている。そのつもりだ。
彼は若干困惑しつつも、とくに突っ込むことはせずに答えてくれた。
「まぁ、腹違いとはいえ血を分けた妹だしな」
彼に同母の妹はいない。みな腹違いだ。けれど、焔幽は彼女たちを大切にしている。性格におおいに難のある春麗に対してすら相応の気遣いは見せている。
妃嬪候補たちへの塩対応とは大違いだ。
どうして自分は、こんなにも真剣に焔幽という男のことを考えているのだろうか。それがどうにも滑稽で、ふいに笑い出したくなった。
彼の言うとおり香蘭……いや、蘭朱らしくない。
(私は、香蘭としての生を歩みはじめているのかもしれないですね)
魂と肉体、人間を定義づけるのはどちらだろう。なんだか哲学的だ。
「陛下は女嫌いではないですよね。あなたが厭うのは……男女の愛」
香蘭の言葉は鋭利な刃物のように焔幽を突き刺す。
焔幽はあくまでも期間限定の主。深入りする気などなかったし……だから先日の額飾りの件は見なかったことにした。
けれど、彼がその気ならばと香蘭は彼を見返した。頭の片隅で、まんまと彼の挑発にのってしまったことを後悔しながら。
「あなたが私に恋をする? それはありえないでしょう」
「なぜ断言できるのだ?」
「……陛下は公主さま方をとても大切になさっていますよね」
唐突に話題を変えた。焔幽はそう思ったかもしれないが、香蘭のなかでは同じ話題が続いている。そのつもりだ。
彼は若干困惑しつつも、とくに突っ込むことはせずに答えてくれた。
「まぁ、腹違いとはいえ血を分けた妹だしな」
彼に同母の妹はいない。みな腹違いだ。けれど、焔幽は彼女たちを大切にしている。性格におおいに難のある春麗に対してすら相応の気遣いは見せている。
妃嬪候補たちへの塩対応とは大違いだ。
どうして自分は、こんなにも真剣に焔幽という男のことを考えているのだろうか。それがどうにも滑稽で、ふいに笑い出したくなった。
彼の言うとおり香蘭……いや、蘭朱らしくない。
(私は、香蘭としての生を歩みはじめているのかもしれないですね)
魂と肉体、人間を定義づけるのはどちらだろう。なんだか哲学的だ。
「陛下は女嫌いではないですよね。あなたが厭うのは……男女の愛」
香蘭の言葉は鋭利な刃物のように焔幽を突き刺す。