焔幽はまったく悪びれず、けろりと返す。
「言っただろう。おれは近頃、百八十度趣味が変わったのだ。妃嬪たちは美女ばかりで興味が湧かぬ」
 そして誘惑するような眼差しを香蘭に送ってよこす。瑠璃妃、桃花がこの場を見たら「もう死んでもいいですわ!」と感涙することだろう。
(近頃の陛下はかわいげがなくなりましたね)
 少し前までは香蘭が一方的にからかうばかりだったのに、このところは思わぬ反撃を受けることも多い。香蘭としてはおもしろくない。

「あら、朱雀宮へお帰りではないのですか?」
 彼の足が別方向に進むのを見て尋ねた。妃嬪の誰かを訪ねる気になったのだろうか。
「あぁ、李蝶(りちょう)の宮へ寄る」
「李蝶さま、ですか」