例のごとく、公主付きというのは女官にとって当たりでも外れでもない微妙な立ち位置なのだが……この雪紗宮はありていにいえばやや外れ寄りといったところだろうか。現在の千華宮には嫁入り前の公主が四名いるが、一番立場が弱いのが末姫である雪寧だった。実母はあまり身分が高くなかったうえに早世しており、雪寧には後ろ盾がない。後宮は弱肉強食の戦場なので、力がない者はますます食われるばかりなのだ。

 ただ、ここが〝外れ〟なのは出世を目指す者にとっての話。香蘭には楽園のような職場である。雪寧は愛らしく心根の優しい娘で、同僚たちものんびりした気のいい人間が多い。ドロドロした妬み、嫉み、血みどろの足の引っ張り合い、そんな後宮らしさとは無縁の日々が送れる。

 小さな庭を彩るのは野に咲く花々、建物はややガタがきているところもあるが風雨をしのぐにはなんの問題もない。素朴で温かな宮のなかで、女官たちは繕い仕事の合間におしゃべりに興じる。
「私たちは大軍同士のぶつかり合う戦場を、物見やぐらから眺めているようなものね」
「そうそう、安全な場所からやいのやいの言っていられるんだもの。恵まれた立場だわ」
 決して負け惜しみではなく、本心からそう思っている人間ばかりがここには集まっている。彼女たちの言うとおり、現在の千華宮は大乱を前にした異様な緊張感に包まれている。