香蘭は彼の衣装部屋に足を踏み入れ、数えきれないほどの衣を前に思案した。
(蒼い瞳がなにより印象的なので、それに合わせて蒼い衣がいいでしょうか)
 悪くない、と思った。が、焔幽はまず見かけないレベルの美男だ。なにをどう着ても悪くはならない。
(なんでも似合う方の衣装選びは意外と難しいのですよね。蘭朱もそうでしたが)
 その点、香蘭は色黒で似合う色がかぎられているので簡単でよい。
 
 迷ったすえに、香蘭は二着を選び出した。ひとつは晴れた日の海のように美しい蒼色の衣、もう一方は夜空のような深い藍。
(本人が気に入るかどうかも無視してはいけませんね。お気に入りを着ていると表情も明るくなりますし!)
 最後の選択は本人にゆだねようと決め、香蘭は二着を持って彼のもとに戻った。もちろんそれぞれの衣に合う装身具も一緒に準備をしている。

 香蘭は両手に一枚ずつ衣を持ち、彼の前に立った。
「こちらがよい」
 焔幽は迷うことなく、香蘭の右を指さした。
「ふふ。私も同感です」
 彼が選んだのは藍色のほうだ。香蘭も絶対にこちらがよいと思っていて、彼が反対意見だった場合にはさりげなく誘導しようと考えていたほどだ。
(よい素材にはシンプルな味つけが一番。完璧な美形に過剰な装飾は不要ですね)
 衣が地味なほうがかえって、焔幽の美貌がすごみを増す。
「会談のお相手は皇子ですからね。対してあなたは皇帝陛下。格を感じさせるコーディネートにしましょう」
 香蘭はウキウキと、彼の肩に衣をかける。
(地味な女性を変身させるのも楽しいですが、これはこれで!)
 最高級食材を使っての調理も腕が鳴るというものだ。