「大きな悪意ではなくても、結果的に桃花さまの衣装は裂けた。彼女は断罪されてしかるべきでしょう」
 それから、香蘭はほんのりと冷たい笑みを浮かべた。
「私は陛下が思うほど優しい女ではないので……女官の罪は主の罪。今回の件も柳花さまが責任を取るべきと個人的には思っております。ですが、陛下が私と同じ考え都の確信は持てませんでしたので」
「なるほど。俺の意向を確認するつもりだったのか」
 香蘭はうなずく。
「決して本意ではないですが、私の現在の主は陛下。意に添わぬ行動をとるわけにはいきませんから」
 焔幽はやっと、少しだけ笑みを取り戻した。
「そんな殊勝な心を持っているのなら、お前の正体を白状してほしいところだが」
「私の正体は胡香蘭。それ以外の答えなどありませんよ」
 しれっと香蘭は答える。

 焔幽は苦笑し話題を変える。
「あまり後味のいい真実ではなかったが、柳花の命だった、というよりはマシだったか」
「そうですね。桃花さまにとっては」
 言いながら、香蘭は自身の心臓がざらりとしたものに撫でられるのを感じた。
(ですが、仕える側は無意識に主の心を読もうとするものです)
 柳花が鈴々を責めなかったのは、心のどこかで彼女に共感していたから。そう考えることもできるのではないか。
「ん、どうかしたか?」
「いいえ、なんでも」