「被害を受けたのは景桃花だ。彼女の意向を確認し、処分は追って知らせる。そなたもあの女官も沙汰を待て」
「――はい」
 柳花の声はか細く、震えていた。

 事件の謎は解けたものの、焔幽も香蘭もそう晴れやかな気分にはなれなかった。
「少し庭を散歩でもしていかないか」
「はい」
 このときばかりは香蘭も軽口を返したりせず素直にうなずいた。
 千華宮の敷地は広大だ。ここだけでひとつの街を形成しているに等しい。丸池にかかる赤い橋の上から、ふたりは静かな水面を眺めた。
「たしかに。景柳花は損な役回りだな」
 ぽつりとこぼした焔幽の言葉が池に落ちる。
「もちろん桃花さまは柳花さまに感謝しているでしょう。柳花さまだって、そういう姉だから大切になさっている。あのふたりの姉妹愛は本物だと思います」
「……あの女官はだからこそ歯がゆかった、そういうことか」
「えぇ。たまには桃花さまより柳花さまが評価されてほしい。そう考えたのでしょう」

 明琳や月麗に勝つ必要はなかったのだ。衣装がほんの少しほつれ、それで桃花さまが動揺し舞が乱れる。鈴々が望んだのはその程度のことだったのだろう。現に衣装の細工はなんとも中途半端なものだったと聞いている。
「お前がみなの前であの女官を告発しなかったのは、柳花のためか?」
 香蘭はしばし考えた。