数日後。香蘭は焔幽について、柳花の住まう玻璃宮を訪れた。
「秀由さんが嘆いていましたよ。ようやっと陛下が妃嬪の宮に渡られることになったのに、まさか昼間だなんて!と」
 太陽はまだ中天の位置にいて、地上を明るく照らしている。もちろん、焔幽は伽のために柳花のもとを訪ねるのではない。
 先日の香蘭の発言の真意を確かめるためだ。
 焔幽のつま先が不愉快そうに小さな石ころを蹴る。
「俺だって心底、不本意だ。景桃花への嫌がらせの犯人捜しで、妹である柳花の宮に来ることになるとはな」
 姉妹は王家の遠縁。妃嬪候補に興味のない焔幽も、彼女たちが仲のよい姉妹であったことは認識していたようだ。

「この宮の女官が?」
 焔幽と香蘭の話を聞いた柳花は両手で口元を覆い、それきり絶句した。瞳に浮かぶのは驚愕の色だけで、罪悪感も後ろめたさもいっさい見えない。
(柳花さまは私とは違って、そんなに嘘が上手な人間でもないでしょう)
 焔幽も同感のようだ。香蘭に顔を近づけ、耳打ちする。
「どうやら、お前の推理が正解だったようだな」

 柳花はなにも答えない。が、惑う瞳で自身の後ろを振り返る。そこに控えるのは玻璃宮の女官たちだ。同席してほしいと皇帝自らが頼んだので、この場にいる。みな、訳がわからないという顔だ。ただひとりを除いて――。
 柳花もそれに気がついたのだろう。
鈴々(りんりん)? なにか知って……」
 主に名指しされた彼女はビクリと大きく上半身を跳ねさせ、もう耐えきれないと顔を床に突っ伏した。
「も、申し訳ございません! わた、私が……」
 鈴々の言葉は嗚咽交じりになり、要領を得ない。だが、焔幽もそして柳花も、彼女を責めたりせず辛抱強く待った。
 ずいぶんと時間を要したが、香蘭が先日焔幽に話した推測がおむね当たっていたことがわかった。