一応、語尾に疑問符はついていたものの、彼は確認を持っている様子。これ以上はとぼけても無駄だろう。
「逆に、陛下はお気づきになりませんでしたか?」
 焔幽は悔しそうに首を横に振った。
「香蘭。お前はなにに気づいたのだ?」
「私は優秀ですが、別に第六感があるとか、凡人には理解できない推理力を持つとか、そういうことはないのです。ただ……人よりちょっと目端がききます」
 焔幽はうなずく。
「それはよく知っている」
「先ほどの場、私は妃嬪候補さま以外の者をしかと観察していました。そうしたところ、ひとり尋常じゃないほど青ざめ、震えている者がおりました」

 蒼い瞳がその真ん中に香蘭をとらえる。
「誰だ?」 
「名は存じません。ですが」
 大きく深呼吸をひとつしてから、香蘭は告げた。
「桃花さまの妹である玻璃妃、景柳花さまの宮に勤める女官でした」
 焔幽の目が驚愕に見開かれる。ゴクリと喉の鳴る音が聞こえてきそうだ。
「どういうことか、聞かせてくれ」