香蘭は口元に手を当て、貴蘭朱のように艶然とほほ笑んでみせた。
「千年にひとり。ぴったり、千年おきとはかぎらないのでしょう」
 焔幽は額にかかるひと筋に髪をスッとかきあげた。ゾクリとするほど色っぽい仕草だ。
「わかるような、さっぱりわからないような理屈だな」
 あまり納得はいっていない様子で唇をかんでいる。
「世の中には決して解明できない謎がある。これもまた揺るぎない真実ですわ」
「なるほど」
 彼の視線がまっすぐに香蘭を射貫く。焔幽の長く美しい指が頬に触れた。どこまでも冷たい美貌を持つ男の手は存外に温かい。
 至近距離で見つめ合う。流れる空気は口づけを交わす直前のようにトロリと甘く、それでいて暗殺者を前にしたときのヒリヒリした緊張感に満ちている。
「だが、俺はこの謎を解明するぞ。必ずだ。逃がしはしない」
「……私をつかまえられる男など、この世のどこにもいませんわ」
 歌うように香蘭は言った。焔幽は眉根を寄せ、ククッと強気な笑みを見せる。
「上等だ」

 彼は香蘭の頬を撫でていた手を離すと、いつもの顔に戻った。
「聞きたいことはこれで終わりではない。もうひとつ、こちらが本命だ」
「なんでございましょうか」
 香蘭はもう、彼の聞きたいことがなんなのかわかっている。けれどとぼけてみせた。
「瑠璃妃、景桃花の衣装に細工をした人間。おそらく、お前は犯人の目星がついているな?」