月麗が聞いたら卒倒しそうな発言を彼はけろりと吐く。
「では、なにがご不満なのでしょう?」
 香蘭になにかを問いただしたい、彼はそういう顔をしている。
「彼女の舞、あれはわりと珍しいものだそうだな。彼女の出身地方に伝わる伝統的なものだそうだ」
「へぇ、そうなのですね!」
 それは知らなかった。焔幽はますますいぶかしげな目になる。
「お前と同郷なのかと思ったが、それは違った。今の反応を見るに、お前はそもそもあの舞を今日初めて見たのだな」
 香蘭は素直にうなずく。彼がどこに引っかかっているのか、よくわからない。
「では、なぜ振りつけを教えることができた?」
「あぁ、そんなこと! 舞の振りには規則性がありますわ。右に一回、左に一回。であれば次は右に二回。そう決まっています」
 実際の舞の振りつけはもう少し複雑だったが、十分に次の動きが予想できるものだった。

 焔幽はふぅと細い息を吐く。そして香蘭から目をそらし天井を仰ぐ。
「この前、夏飛が言っていた。お前は得体が知れないとな」
 静かな声で彼は続ける。
「俺も同感だ。ナルシストなのは構わぬ、優秀なのは大歓迎。だが、どうしてそうなったのか。お前は過去が見えない」
 香蘭は反論せず黙って彼の言葉を聞く。