(陛下ほど情にもろくはないと思っていましたが、私も前世とは少し性格が変わったのかもしれませんね)
 焔幽はふと真顔になる。
「さて、本題に入ろうか」
「長くなりそうでしたらお茶を淹れます」
 焔幽は返事をしなかったので、肯定の意だろうと判断して茶を用意した。ふたりそろってズズッとすすったところで、彼が話し出す。
「いくつか、聞きたいことがある」
「なんなりと」
「まずお前、初めのほうに芸を披露したなんとかっていう女に、こっそりと舞の振りを教えたそうだな」
 意外なところを攻められて、香蘭は瞳をパチクリさせる。
「ど、どこからその情報を?」
「宴が始まる頃にその女がお前に礼を言いたいと捜していたのを見たんでな。夏飛に理由を調べさせた」

 そういえば、トリを飾った明琳の演奏が終わったあとで例の女性がわざわざ自分のところにやってきたなと思い出す。隣にいた夏飛は気にも留めていないような顔をしていたが、しっかりと聞いていたらしい。香蘭はやや申し訳なさそうにモゴモゴと言い訳する。
「贔屓はいけないとわかってはいたんですけど。彼女が泣き出しそうだったので、つい……」
 焔幽は公正であることを好む。香蘭が勝手にひとりだけを助けたことが気に食わないのだろうと想像したが、どうやら違うようだ。
「そのくらいは別に構わん。そもそも俺自身は妃嬪に芸事の才など求めてはいない」