焔幽はよく夏飛や香蘭を無礼だと口をとがらせるが、千華宮いちの無礼者は彼女かもしれない。
「ですが、そのマイナス面を考慮してもわたくしよりは評価が高い。ですので、桃花さまがトラブルに見舞われて一番得をするのはわたしく。みなさま、そうお考えなのですよね」
 場は水を打ったようにシーンとなり、誰もひと言も発さない。当事者の五人も見物しているだけの女官たちも、みなが気まずそうに視線を泳がせるばかりだ。香蘭はその彼女たちの顔を順に観察する。そして、とある見知った顔のところでぴたりと瞳の動きを止める。
 しばしの間を置いて、ストンと真実を理解した。
(犯人は美芳さまではない)
 その女性と美芳の姿を見比べ、ますます確認を深める。
(ですが、この場でお伝えすべきなのかどうか……女の争いに首を突っ込む宦官なんてこれ以上ないほど鬱陶しい存在ですよね)

 香蘭が悩んでいる間に焔幽が声をあげた。
「そこまでにしろ」
 鋭い声にみなが弾かれたように彼を見る。焔幽は皇帝らしい威厳を見せて宣言した。
「瑠璃妃、景桃花に故意になにかをした人間がいるのかどうか。俺が責任を持って調査する。だから無責任な犯人捜しはここまでだ」
 そこで焔幽は少し表情を緩めて、夜空を見あげた。白く輝く月が、焔幽の冴えざえとした美貌を照らす。