香蘭は女性にしては背が高い。が、すらりと柳のようにしなやかなわけではなく、首はがっしり、肩もしっかり。くびれのない寸胴体型で『ずんぐりむっくり』という形容詞は彼女のために存在しているのでは?と思うような体格をしている。そこらを歩く宦官たちよりよほど浅黒い肌を持ち、髪は黒く、艶やかさははないがコシはある。
 さらに力持ちを買われて外仕事ばかり任されるのでついたあだ名が〝モグラ〟だった。ちなみに命名は雪寧である。外で土仕事をする香蘭の姿を見て、よく似ていると思ったのだろう。まだ幼さと無邪気さを残す彼女に悪気はなく、香蘭自身も存外気に入っている。
(言いえて妙、たしかに我ながらよく似ていると思います)

 水晶に願ったとおり、蘭珠だった頃とはまったく異なる容姿を手に入れた。絶世の美女とは言いがたいので、皇帝の目に留まる可能性は前世よりは低いはず。だがしかし、油断は禁物だと香蘭は気を引き締める。
「私の内なる美が隠しきれずにあふれるのが心配だわ。そうなれば、きっと陛下にお声をかけられてしまうもの」
「それってツッコミ待ちなの? 私たちは下級女官。ここにいる千人の女性たちの底辺よ。おまけにあなたは〝モグラ〟だし」
 詩清は辛口だが心根は優しく面倒見のいい先輩だ。寝ぼけたことを言っている新人を本気で心配しているのだろう。だが、香蘭の悩みだって本気も本気なのだ。