心臓の移植は当然、誰のものでも良いというわけじゃない。適合しなければ移植はできない。適合するための前提条件を調べたことがある。
抗体の有無など様々な条件はあるが、とりあえずA型の莉桜は、同じA型もしくはO型の人の心臓ならば適合する可能性はある。
佑馬は、O型だった。
血液型占いで、O型は明るくておおらかなはずなのに佑馬にはその要素が見当たらない……というのは定番のからかいネタだったからよく覚えている。
あとは体重が近いことだとか、輸送時間を考えて距離が近い方が望ましいとか、その辺りも満たしていた。
そして何より、佑馬が亡くなった日と、莉桜の移植手術が行われた日の時系列。あまりにタイミングが合いすぎているのだ。
今も莉桜の身体に血を送り続けている臓器。これが佑馬のものではないかと疑いを持つには十分すぎるだろう。
莉桜は恐る恐る視線を上げる。裕美子は、優しい笑みを薄く浮かべていた。そしてはっきりと言い放った。
「違うわよ」
「え?」
「莉桜ちゃんの心臓は、佑馬のじゃない」
ここまではっきり断言されるのは予想外だった。
莉桜の戸惑いを察したのか、裕美子はティーカップを一度テーブルに置いて続ける。
「確かに佑馬は脳死と判断されて、その臓器のいくつかは必要としている人に移植された。あの子は生前そういう意志表示をしていたし、わたしたち家族もそれが良いと思ったから」
「それなら、やっぱり可能性として……」
「遺族であろうと、故人の臓器がどこの誰に移植されたのかはわからない。だけどね、手紙を受け取ることはできるの」
「……あ」
言われてハッとした。
……ああ、どうして忘れていたのだろう。
ドナーとレピシエントは、お互いが誰なのかを知ることはできない。だが移植手術後に、匿名で手紙のやり取りをすることはできるのだ。