ガチャガチャと鍵を開ける音がして、扉の向こうから現れる女性。
容姿は声とは違い、莉桜の記憶にあった姿よりも皺や白髪が増えており、時の流れを感じさせる。
「お久しぶりです」
「本当に久しぶりね。やだわ莉桜ちゃんてばすっかり大人になっちゃって」
心から嬉しそうにくしゃりとした笑顔を浮かべられる。その表情に、莉桜はいくらか緊張が和らいだ。
櫻田裕美子。佑馬の母親。
昔からすごく良くしてもらっていたのに、佑馬が亡くなってからすっかり疎遠になっていた。だから今日の約束を取り付けるにあたって電話を入れたときには、裕美子もひどく驚いていた。
「せっかく莉桜ちゃんが来てくれるっていうから、ちょっと高い紅茶買っちゃった。今淹れるから座ってて」
「ありがとうございます。あ、大したものじゃないんですけどお菓子買ってきたのでよかったら食べてください」
「あらあらマドレーヌじゃないの。これ並ばないと買えないやつでしょう。もらっていいの?」