当然ながら、心の中の問いかけに答えはない。
だけど、彼は呆れたような、それでいて優しい表情で、莉桜の話を聞いてくれているような気がする。
どれぐらいの間、佑馬と向き合っていたのだろう。
他の墓参りに来たらしき人たちの声が聞こえてきて、莉桜は静かに立ち上がった。
……じゃ、また来るね。
空は雲一つなく、嘘のように青い。
莉桜がすっと深く息を吸い込んだとき、強めの風が吹いた。近くにあった桜の木から、大量の花びらが雨のように降り注ぐ。
もう散り始める時期か。莉桜は服についた花びらを摘み、光に透かしてみる。
桜の花の寿命は短い。短いからこそ愛でられる。
かつて長くは生きられないと言われてきた莉桜は、寿命の短さ故に愛される桜の花に何度も励まされた。
だけど今は思う。花はそれを望んでいるのだろうか。愛でられなくても良いから、もっと生きていたいと思ったりはしないのだろうか、と。
◇
霊園近くからバスに乗って十数分。
降りてしばらく歩くと、莉桜にとって懐かしい風景が広がる。かつて莉桜が暮らしていた家のあった住宅街だ。
悠木家は、莉桜の手術が終わってしばらくした頃に、駅前のマンションに引っ越している。帰省するのは当然そのマンションなので、この住宅街に来るのは本当に久しぶりなのだ。
莉桜は道を思い出しながらゆっくりと歩き、やがて目的の家を見つけた。
「……」
覚悟を決めてインターホンに手を伸ばす。
いい加減、逃げずに立ち向かわなければならないこと。
佑馬の墓参りに行こうと思うも、つい後回しにしてしまった原因。
ピンポンとどこか間の抜けたチャイムの音が鳴ってすぐ、莉桜の記憶と少しも変わっていない女性の声がした。
『はーい』
「こんにちは。莉桜です。悠木莉桜です」
『あら、待ってたわよ。今開けるわね』