当然ながら、心の中の問いかけに答えはない。
 だけど、彼は呆れたような、それでいて優しい表情で、莉桜の話を聞いてくれているような気がする。


 どれぐらいの間、佑馬と向き合っていたのだろう。
 他の墓参りに来たらしき人たちの声が聞こえてきて、莉桜は静かに立ち上がった。

 ……じゃ、また来るね。


 空は雲一つなく、嘘のように青い。

 莉桜がすっと深く息を吸い込んだとき、強めの風が吹いた。近くにあった桜の木から、大量の花びらが雨のように降り注ぐ。

 もう散り始める時期か。莉桜は服についた花びらを摘み、光に透かしてみる。

 桜の花の寿命は短い。短いからこそ愛でられる。

 かつて長くは生きられないと言われてきた莉桜は、寿命の短さ故に愛される桜の花に何度も励まされた。
 だけど今は思う。花はそれを望んでいるのだろうか。愛でられなくても良いから、もっと生きていたいと思ったりはしないのだろうか、と。






 霊園近くからバスに乗って十数分。

 降りてしばらく歩くと、莉桜にとって懐かしい風景が広がる。かつて莉桜が暮らしていた家のあった住宅街だ。
 悠木家は、莉桜の手術が終わってしばらくした頃に、駅前のマンションに引っ越している。帰省するのは当然そのマンションなので、この住宅街に来るのは本当に久しぶりなのだ。

 莉桜は道を思い出しながらゆっくりと歩き、やがて目的の家を見つけた。


「……」


 覚悟を決めてインターホンに手を伸ばす。
 いい加減、逃げずに立ち向かわなければならないこと。
 佑馬の墓参りに行こうと思うも、つい後回しにしてしまった原因。


 ピンポンとどこか間の抜けたチャイムの音が鳴ってすぐ、莉桜の記憶と少しも変わっていない女性の声がした。


『はーい』


「こんにちは。莉桜です。悠木莉桜です」

『あら、待ってたわよ。今開けるわね』