『莉桜へ
この手紙を読んでいるということは、手術は無事に成功して退院できたんだな。おめでとう。
何で字が下手なくせにわざわざ手紙なんか書いてるんだと笑われているのが目に浮かぶから、まずその疑問に答える。……ちょっと直接言いづらい、だけど伝えたいことがあるからだ。そういうときは手紙を書くのだと昔から相場が決まってるらしい。
だから次学校で会ったときにこの手紙を話題に出すのは避けてほしい。たぶん羞恥心で死にたくなるだろうから。
さて。
莉桜とは出会ってからもう10年以上が経つな。初めて会ったときは、ハキハキしゃべる元気のいい女の子に気後れしたのを覚えてる。
正直に言えば、幼い頃は君のことが少し苦手だった。僕は昔から気の弱い奴だったから、いつでも強気な莉桜にはきっと泣かされたこともあったんじゃないかな。
だけど年齢が上がって、君は敵をつくらないように、明るいながらも穏やかに振る舞うようになった。
クラスメイトに病気のことで嫌なことを言われたら、いつもにムキになって言い返してたのに、いつの間にか笑って受け流すようになってたな。でもそのたびに、すごく辛そうな顔をしてたことは、自分で気付いてるか?
……僕がいつから莉桜のことを好きだったのかと聞かれたら、たぶん、君が明るい言葉の裏で苦しんでいることに初めて気付いたときからだと答える。
苦しそうな表情を見るたびに、莉桜の本心に気付いて、心から笑顔にしてあげられるのは自分だけだとか、そんな自惚れたことを思ってた。
だけど、実は僕が莉桜のことをわかってるだなんていうのは酷い思い違いだったって、この前ようやくわかったよ。
僕は、君が言っていた「いつ死んでもいい」は本心なんだとばかり思ってた。だから、どうにかしてその考えを変えさせないといけない、と。
死ぬ恐怖を誤魔化すために言い聞かせてたんだって、少し考えたらわかりそうなものなのにな。
だからこれからは、莉桜の本当の気持ちを、僕だけにはちゃんと教えてほしい。わかったつもりになって後悔はしたくないから。
それから、君が生きている間ずっと一緒にいさせてほしい、なんて身勝手な願いを受け入れてくれてありがとう。
言葉で言うほど簡単なことじゃないのに、莉桜が迷いなく答えてくれたのが本当に嬉しかった。
これからも、どうかよろしくお願いします。
櫻田佑馬』