佑馬の書く文章が好きだ。一部をほんの少し読んだだけでもわくわくして、続きを読みたくなるような文章。
これまで、書いた小説をちゃんと読ませて欲しいと言っても、「まあそのうちに」とかわされてきた。
それが今、目の前に。
──莉桜はそれから部屋にこもって、佑馬の書いた小説と向き合った。
元盗賊の少女と、正体を隠した亡国の王が世界を旅するファンタジー。
雑な字のせいで解読に苦労する部分もあったものの、穏やかな日常と絶望的な場面の緩急が鋭く、莉桜はいとも簡単に物語の世界へと入り込んでいた。
「やっぱすごいなぁ、佑馬は」
全体の三分の一ほど読んだ頃、莉桜はそう独り言を呟いて机に突っ伏した。
彼と同じ景色が見たくて、部活見学をきっかけに自分でも書くようになった小説。自分で書いてみてわかる。これだけ文章を磨くのに、莉桜の知らないところで佑馬はたくさん努力していたのだろう。
休みなく原稿用紙と格闘していたせいで、夜中になればさすがに疲れが溜まってきた。
次のページだけ読んだら一旦休憩しよう。そう思って原稿用紙を一枚めくった莉桜の目に、思ってもみなかった文字が入ってきた。
『莉桜へ』
当然前ページの続きの文字がくると思っていた場所にあった自分の名前。
えっと声を上げて目をこする。
「なにこれ……」
原稿用紙の束の中に一枚混ざったそれは、佑馬から莉桜に宛てた手紙のようだった。
息を止めた莉桜はその紙を震えながら持ち上げ、ゆっくりと文字を追った。