「佑馬が、何です?」
焦ってそう聞けば、電話の向こうの彼女は戸惑ったように声をひそめる。
『……え? まさか、知らない、の……? そ、そんなわけないよね?』
「春休み中、訳があって携帯電話の繋がらない場所にいたので。ちょうど今帰ってきたところで、まだ先輩以外誰とも連絡してなくて……」
『そう、だったんだ』
彼女は一度完全に黙った。
電話では向こうが何を考えているのか全くわからない。
じれったい気持ちで次の言葉を待っていると、数十秒経ってようやく声がした。
『莉桜ちゃん。お願いだから落ち着いて聞いてね。……櫻田くんね』
櫻田くんね、……亡くなったんだ。
学校の近くにある高台の神社に行ってたみたいなんだけど、その神社の石段が劣化していて。
それを踏んだら運悪く崩れて、そのまま落ちて頭を強く打ったそうなの。近所の人が見つけて救急車で搬送されたらしいんだけど、残念ながら……。
彼女のそんな説明は全て、頭の中をすべるように流れていく。電話の向こうの彼女には、前置きの通り莉桜が落ち着いて聞いているように思えたかもしれない。
だけど当然、そんなわけはなかった。
ただ、頭がその言葉を受け入れるのを拒んでいたというだけ。
『……だからあの、あんまり気を落とさないで……っていうのも難しいだろうけど。わたしも、話相手ぐらいにはなれるから』
かろうじて「ありがとうございます」とだけ答えて電話を切った。
足に上手く力が入れられなくて、その場に崩れ落ちる。
何? 何の冗談?
嘘だよね。佑馬が死んだ?
震える手で携帯を持ち直し、入っていた大量のメッセージを順番に確認していく。
「っ」
そしてそのメッセージの数々は、全て現実を突きつけてくるだけだった。
全てが、仲の良い幼なじみを亡くした莉桜のことを心配するメッセージ。