退院が許され久しぶりに自宅へ戻った莉桜は、荷物だけ置くとその足でまた外に出ようとした。


 向かう場所は一つしかない。櫻田家は、莉桜の家からほんの数分で行ける場所にある。

 サプライズでいきなり訪ねるのもいいけど一応連絡を入れて家にいるか確認しておいた方がいいかと気づき、急く気持ちをどうにか抑えて荷物の中からスマートフォンを取り出した。
 今日は既に春休みが終わって新学期が始まっている。時間的には帰宅している頃だけれど、行ってみていないのでは間が抜けている。

 久しぶりに手にしたスマートフォン。

 電源を入れてすぐに違和感を覚えた。


「あれ、何だろう。いっぱい不在着信が……」


 それだけではない。一応連絡先を交換してはいるものの、ほとんどやりとりをしたことがないクラスメイトたちからも大量のメッセージが入っていた。


 妙な胸騒ぎがした。莉桜は最新の着信履歴を開く。今日のものだ。そこそこ仲良くなった文芸部の先輩女子部員からだった。

 電話を掛けると、4コールの後に相手が出た。


「あ、もしもし。悠木です」

『莉桜ちゃん!? 良かった。何回掛けても繋がらなかったから……。学校にも来てないみたいだったし』


 莉桜は、病気のことや手術のことはなるべく言わないよう学校側に頼んでいる。
 クラスメイトたちでも、莉桜のことは病弱でよく入院する人……ぐらいの認識だ。この春休みに手術をしていたことは知らない。
 だから恐らく、この先輩は莉桜の病気のことなんて全く知らないはずだ。

 ならば、いったい何を心配して電話を掛けてきたのか……。


「あの……」

『思ったより声はしっかりしてるね。櫻田くんがあんなことになったから、莉桜ちゃんのことが本当に心配で……』

「……佑馬が?」


 ごくりと唾を飲み込んだ。胸騒ぎがいっそう強くなる。