胸に手を当てると、知らない誰かの心臓が皮膚の下で鼓動を打っているのがわかる。誰かの死を代償に生きていける。これからこの鼓動を感じるたびに、莉桜はそれを思い出すのだろう。
手術後も、しばらくは病院で経過観察することになっていた。
佑馬がお見舞いに来てくれたりしないだろうかと少し期待したが、残念ながら彼は一度も来なかった。
だけど別に良かった。これからいくらでも会えるのだから。何年先も一緒にいられるのだから。
数日前、最後に佑馬に会ったあの日。
秋頃に彼から提案されていた賭けに、莉桜は負けた。敗者は勝者の言うことを何でも一つ聞くという約束だった。
今すぐは叶えられないし、きっと簡単でもない。佑馬はそう前置きした上で莉桜への願いを口にした。
『君が生きてこの世にいる間、ずっと一緒に居させて欲しい』
まるでプロポーズのような言葉。
本人もそれはわかっていたのか、顔は真っ赤になっていた。
それが何だか可笑しかった。
『なんだ、そんな簡単なことで良いんだ』
そんなこと言われなくたって、佑馬がいない場所で生きている自分なんて想像がつかない。
そう思って言ってやれば、佑馬ははにかんだように微笑んでいた。