母親は莉桜のことを優しく抱きしめる。胸いっぱいに溢れそうな気持ちをそうやってしばし母娘で共有し合った。その母親が帰って一人になると、莉桜の頭には大切な幼なじみの顔が浮かぶ。
「佑馬、私生きられるよ」
本当は今すぐ電話をしてでも伝えたかった。
だけどスマートフォンはあまり使わないからと母に預けていたし、ロビーの公衆電話を使おうにも、佑馬の携帯番号を覚えていない。
……手術が終わってから伝えよう。驚かせてやろう。
あの子はなんて言うだろうか。
クールぶった表情を崩さないまま「良かったな」とそっけなく言うかもしれないし、案外泣いて喜ぶかもしれない。
莉桜にとって、昔から佑馬は特別だった。
いつも気が付けば当然のようにそばにいてくれて、だけど必要以上には踏み込んでこない。普段は他人に興味が無さそうな態度をとるくせに、実は莉桜のことを誰よりもよく見ていて、わかってくれる。上手くつかめないところもあるけれど、そんな佑馬といるときが一番心が安らぐ。
「早く会いたいな」
手術が成功したら、彼と一緒にやりたいことが山ほどある。
まずは文芸部に入ろう。書きかけで、きっと完成させられることはないと諦めていた小説を最後まで書いて、佑馬に読んでもらおう。
それから二年生になれば修学旅行がある。何かあってはいけないからとこれまで参加させてもらえなかったけれど、今度こそちゃんと許しが出るかもしれない。そうしたら、今まで莉桜に付き合って修学旅行不参加だった佑馬も、やっと参加してくれる。
あとは……デートをしてみたい。
恋愛としては思うように進展せず、時々露骨なアピールをしてみたこともあったが、この前ようやく彼に好きだと言わせることができた。これまでのような「幼なじみ」とは大きく異なった関係。照れくさい部分もあるけど、期待の方が大きい。