「普段なかなか見ない料理で面白いですね。創作和食の店を舞台にした作品を書いてみるのもいいかもしれない」

「お前はどこでも仕事のことを考えてるな」


 卓は佑馬の言葉に、呆れたように肩をすくめた。それから、料理と一緒に運ばれてきた酒に口を付ける。


「ああ……これは美味い」

「これ、中に入ってるのは桜の塩漬けですかね」

「みたいだな」


 小さなガラスのカップを満たした日本酒。そこに薄いピンク色の花が二つほど浮かんでいる。酒は弱めの炭酸で割られており、一口含むとピリリとした刺激と優しい桜の香りが広がる。


「良い店ですね」


 佑馬はしみじみと呟いた。
 美しい夜桜を見ながら、酒と料理を楽しめる。値段も覚悟していたよりは高くない。


「桜は今日でちょうど満開だって、ニュースで見ました。……こんな一番混む日に、よく予約が取れましたね。知り合いのよしみで優先してもらったんですか?」

「……まあ、実のところかなり無理を言ったよ。本当は桜の時期とはずらして来いと言われてたからな」



 やっと正直に言ったか。佑馬はゆっくりと瞬きをする。


「どうして無理を言ってまで、今日ここに連れてきたんですか」

「……今日は、命日だろう。お前の幼なじみの」

「……はい」

「お前にとって大きな意味のある今日この日に、俺の誘いに乗るかどうか試したかった。結果として、お前はここに来た」


 卓は静かに酒の入ったグラスを持ち上げる。

 小さな泡の弾ける透明の液体越しに、彼は佑馬の目をしっかりと見ていた。


「で、もし今日お前が来たら、言おうと決めていたことがある」

「……何です?」

「結婚しよう」


 その言葉はあまりに唐突だった。当然佑馬の脳は理解を拒む。

 ただ、冗談を言っている口調ではない。それだけはわかった。


「っ……おかしいな。卓さん、僕たちは恋人同士か何かでしたっけ」

「一定の交際期間が無ければ結婚できないなんて法律は無い」

「そうですけど」