「卓さん」


 行きたい場所がある。そう言った卓が指定してきたのは、美しい夜桜が見えることで最近一部で話題になっているレストランだった。
 店の近くの待ち合わせ場所に先に来ていた卓を見つけ、佑馬は早足で駆け寄った。


「やっと来たか」


 そう言った卓は、仕事帰りらしく今日もスーツ姿だ。
 普段通りの格好で来てしまったが、レストランならある程度正装で来るべきだっただろうかと佑馬は少し後悔する。


「それで、どういう風の吹き回しですか? いつもの居酒屋ではなく、こんな洒落たレストランに呼び出すなんて」

「悪いな。実は知り合いが経営している店で、前から来いと誘われてたんだが……こう、一人で入るのは気が引ける雰囲気だろ」

「なるほど」


 若い層に向けた店のようで、中は20代ぐらいと思しき女性の姿が目立つ。確かにいくら知り合いの店でも、男一人で入るのはだいぶ勇気がいりそうだ。

 そんなわけで、二人で入れば怖くないと少々強気で店に足を踏み入れる。

 上品な明るさの照明の店内は一面のガラス張りになっている。逆に暗闇の中の桜を照らすライトは眩いほどに明るい。柔らかな色の中に浮かび上がったたくさんの桜は、幻想的でいながら大きな存在感を放っていた。
 案内された席でメニューを見ると、どうやらここはデザイン性の高い創作和食をメインにしているらしいことがわかった。
 何を頼んだらいいものか全くわからず、とりあえず一番上にあったものを頼むと、奇抜な形の皿に乗った、鯛か何かと思しき白身魚の刺身が運ばれてきた。上には色とりどりのエディブルフラワーが散らされている。


「これは……なかなか」


 無駄に大きな器に乗った小さな豆腐と大ぶりで芸術的なカットの野菜を見ながら、卓が呆気にとられた様子で呟いた。知り合いの店であってもるものの、どのような料理を出しているのかまでは知らなかったらしい。