僕は自分がクラスの中で目立たないタイプであることは自覚している。
 容姿も能力もさして秀でたところはない。勉強はできない方ではないのだが、それでもこの学校にいれば平均より少しばかり上という程度だ。

 それに対して莉桜は、大きな目と高めの鼻、薄い唇がバランス良く配置された整った顔立ちに、サラサラとした黒髪を持ち合わせた、誰もが認める美少女。
 さらに校内模試を受ければ必ず上位に食い込む頭の良さに加え、性格も明るく社交的ときている。

 普通ならば、いくら幼なじみとはいえ、高校生にもなれば交友関係が違いすぎて疎遠になりそうなものだ。そうならないのはつまり、『普通ではない』からなのだろう。


「佑馬。職員室に日誌出しにいくの待ってるから、正門まで一緒に行こう」

「良いけど、おばさんを待たせてるんじゃないのか?」

「だいじょーぶ」


 高校から莉桜の家までは、徒歩で約15分。それでも行き帰りは必ず母親が送迎に来る。これぐらい歩けるのに、と莉桜はいつも不満そうだが、体のことを考えれば親としてその心配は当然だろう。


「じゃあ行ってくる」

「ゆっくりでいいよー。走って転んで階段から落ちないようにね~」


 走って転んで階段から落ちそうなぐらい僕は運動神経が悪いと思われているらしい。

 莉桜がいいと言っても、やはり迎えに来ているであろう莉桜の母親を待たせるのは申し訳なく、僕は速足で職員室へ日直日誌を提出しに行った。そしてまた速足で教室へと戻る。

 教室では、莉桜が先ほどいた席から移動せずにぼんやりと窓の外を眺めていた。


 ──消えてしまいそう。

 莉桜の姿を見て、ふとそんなことを思った。

 このまま、清々しい秋晴れの空が彼女を吸い込んでしまいそう。それぐらいに、一人で外を眺める莉桜が儚く見えたのだ。