他の部活ではまずありえないだろうが、高島先輩は12月の末まで部長として文芸部に在籍していた。受験に関しては、三年生の中で誰よりも早く、しかも余裕で推薦を勝ち取っていたから許された所業だろう。

 そんな部活の時間の中で、莉桜が先輩に話しかけに行く姿はちょくちょく見受けられた。趣味が悪いと自覚しつつ聞き耳を立てたことが何度かあるが、どうやら創作のコツを聞き出していたらしかった。
 僕を含め他のメンバーとは、活動時間中であっても創作に関係ない雑談ばかりしていたので、ちょっと意外に思ったものだ。

 最初は創作に全く興味が無いと言っていた莉桜に良い感情を持っていなかった高島先輩だが、今では入部しなかったことを残念に思うぐらいには彼女のことを気に入ったようだ。


「……二年になったら、もしかしたら入部する気になるかもしれません」


 もし莉桜が二年生になれたのなら、それは手術が無事に成功したということ。そうなったら、また入部を勧めてみようと思っている。


「それは助かるな~。あの美少女が部員だって宣伝すれば、新入生男子大量に集まりそうだし」

「ちょ、そんな創作に興味ない人たち適当に集めたら、また卓部長怒るって……」

「はは、俺はもう部長じゃないし、今日で卒業だ。この部はもう完全にお前らのものなんだから好きにしたらいい」


 高島先輩はおかしそうに笑って、ぐいっとジュースを飲み干した。

 ──先輩の送別会は、それから小一時間ほど続いた。
 新部長が部員全員でお金を出し合って買った花束を渡したのを見届けて、僕は散らかったお菓子の個包装袋を片付け始める。

 そんな僕に、高島先輩は教室を出る直前ポンと肩を叩いて言った。


「櫻田。お前は将来プロの作家になれるんじゃないかと思ってる。俺も負けないように精進するよ」


 先輩が僕のことをそこまで買っているのは少々意外だった。

 気の利いた返しが咄嗟に思いつかず、僕は手を振って教室を出ていく先輩に向かって、静かに頭を下げた。