「そういえば、櫻田の彼女は今日来てないのか?」


 わいわい談笑しながら個包装のクッキーを五つほど開けた頃、先輩はふと思い出したように聞いてきた。
 その言葉に他の部員たちも「言われてみれば……」という表情をする。


「莉桜ちゃん、先月ぐらいからパタッと来なくなったよね。何かあったの?」

「……まあ」

「もしや別れた? あんなにラブラブだったのに!」

「いつまでその設定引っ張るんですか。そもそも付き合ってませんので」


 授業をサボって外出し、救急車で運ばれたあの寒い日。あれ以降、莉桜は放課後学校に残ることを禁止された。

 朝は始業ギリギリに送られて来て、授業が終わればチャイムと同時に教室を出る。
 僕と話す機会も、前と比べてかなり減った。無視されているとまでは言わないが、積極的に話しかけてくることはなくなった。


 それとなくそのことについて触れてみると、「あんまりお母さんを心配させるのも違うかなって思って」という答えが返ってきた。
 莉桜の母親が僕のことを良く思わない旨の発言をしているのだろうことが、何となく察された。
 学校での様子を母親が知ることはないのだから、話すぐらいは構わないのではないか……なんて、負い目のある僕から言えるはずもない。


「ちょっと、門限が厳しくなったみたいで」


 事情を知らない部員たちには、この説明が限界だった。
 高島先輩は、紙コップにジュースを注ぎながら「そうか」と呟く。


「……結局あいつ、俺が卒業するまでに入部届出さなかったんだな」

「先輩、最初は莉桜に『入るな』って言ってたじゃないですか」

「創作に興味のない奴が入ったって、活動にしまりがなくなるからな。だが、あいつはちゃんと興味を持っていたし、才能もあった」