知っていたことではあるが、莉桜はずいぶんコミュニケーション能力が高い。僕なら、たとえ何年入院したところで周りの人とゲームをできるほど打ち解けることはないだろう。
……それはともかくとして。知っているのなら話は早い。
「本来のゲームは4、5人でやるのがちょうどいいだろうけど、今回はそのアレンジ版だから違う。参加者は僕と莉桜の二人だけ」
「ほうほう」
「そして本来のルールでは参加者全員のNGワードを決めるけど、今回NGワードがあるのは莉桜だけにする」
「え? 何それ私不利じゃん」
「そうでもない。そのNGワードは、莉桜にも初めから知らせておくから」
「う、うん?」
「①僕は、決めた「NGワード」をどうにかして莉桜に言わせようとする。②莉桜は意地でも「NGワード」を言わないようにする。③最終的に莉桜が「NGワード」言ってしまったら僕の勝ち。言わなかったら莉桜の勝ち」
日誌のフリースペースは、字を普段の1.5倍ぐらいの大きさにすることで、ようやく三分の二ほど埋まった。これで提出しても許されるだろう。
僕は静かに日誌を閉じて、幼なじみのことをまっすぐ見据えた。
「NGワードは『これからもずっと生きていたい』だ」
この謎のゲームの内容を訳すとするならば。
いつ死んだっていい、だなんて言わないで欲しい。莉桜のそんな考えを、僕がどうにかして改めさせてみせる。
これからもずっと生きていたいと言わせてみせる。
ひねくれていて遠回し。だが彼女は、そんな僕の性格をきちんと知っている。そしてその意味を即座に理解できるぐらいに頭が回ってしまう。
「……本当、佑馬はさ」
一瞬、莉桜の笑顔に痛みが混じった。
「何て言うんだろうね。えーっとロマンチスト?」
「意味がわからないな」
「いいよ。やろうよそのゲーム」
莉桜は頭が良い。そして、空気を読むのも上手い。あくまでも軽い調子でそのゲームを提案した僕に、同じく軽い調子で乗ってきた。
ここで僕の思惑を理解していると言ってしてしまえば、どうしたってしけた雰囲気になる。それがわかっているから、わからないフリをして参加すると言った。
「なら決まりだ。ゲームの期間は今日から……桜が咲く頃まで」
「ふふ、わかった。私の手術がある頃だね。それならせいぜい、私にその言葉を言わせる努力をしてみてよ」
「もちろん」
僕は軽く眼鏡を押し上げながらうなずいた。
この賭けには絶対勝つ。そんな決意を固めながら。