桜は八分咲きの状態で満開というそうだ。
 だとしたら、明日には満開と呼んで差し支えない状態になるだろう。食料品の買い出しのために外へ出た佑馬は、川沿いの桜並木を眺めながらそんなことを思った。

 ここは、地元にあった桜並木と景色が似ている。

 佑馬はスマートフォンを取り出して、レンズを桜に向けてみる。カメラ機能に特化した機種ではないので、正直映りはイマイチだ。取材のときに持ち歩くデジカメを持ってこれば良かったなと少し後悔する。多少遠回りにはなるが、荷物の重さと相談して、川沿いの道まで下りてみることにした。


「……おお」


 近くに来れば、自然と感嘆の声がこぼれる。

 頭上に広がる薄いピンク色の花たち。それがそのまま遠くまで続いており、まさに桜のトンネルと表現するにふさわしい。

 今日は平日のはずだが、たくさんの人たちが目を輝かせながら上を見上げたり、記念写真を撮ったりしている。春休みの最中らしい子どもが舞う桜を捕まえようと悪戦苦闘していて微笑ましい。


 つい先ほど「地元の桜並木に似ている」と思ったが、その感想は改めねばなるまい。地元の桜並木はもっと小ぶりというか控えめというか、有体に言えばショボかった。

 似ていると思ったのは、きっと記憶が美化されているからだ。それも当然。あの並木道の桜を見ていた頃は……幼なじみと一緒に過ごした時間は、どうしたって輝いていた。

 佑馬は画素数低めのスマートフォンで、再度撮影を試みる。光の加減とフィルター機能を駆使したおかげで何となく良い感じに映ったような気がする。


「本当に綺麗だ。根本に死体でも埋まってなきゃ割に合わないって思う気持ちもわかるな」


 誰かに聞かれたらギョッとされそうな独り言を呟いて、佑馬は桜のトンネルの下をゆっくりと歩きだした。

 ……だが、ほんの数メートル進んだところでまた足を止めることとなった。