缶の蓋を開けて口を付けた。温かくて苦い液体が舌の上に広がる。
 コーヒーはさほど好きではない。だけどこの苦味は今の沈んだ気分を無理やり前に向けるのに丁度いい。


「莉桜ちゃんの容態、お医者さんから聞いた?」

「ああ。とりあえず今すぐ命に係わることはないだろうって。意識もはっきりしてるみたいだし」

「そう」


 そういえば僕が診察室を出る直前、莉桜は安心させるためなのか、微かに笑みを浮かべていた。小さく口を動かして、楽しかった、と呟いていた。

 それがまだ、僕にとっては救いだった。