しばらく時間が経って、莉桜の母親が現れた。
「っ……」
連絡がいった時点で、莉桜がどこで倒れたのだとか、僕と一緒にいたことだとかは伝わっているはずだ。
僕は、まずは莉桜を連れ回したことを謝罪するべきだろうと言葉を探した。
しかし、いつもなら僕を見かけるたび消え入りそうな声で話しかけてくる莉桜の母親は、僕に気付くと目を合わせないまま会釈して、早足で診察室へと向かって行った。
「……」
他人の家の子どもに怒れるタイプの人じゃない。この反応こそが、精一杯の怒りの表れなのかもしれない。僕は目を閉じて静かに下を向いた。
──するとその直後、誰かに肩を叩かれた。
「……母さん」
「こんなところに突っ立ってたら邪魔でしょう」
のろのろと顔を上げた僕の目に映った母。
まるで莉桜の母親の分まで怒っているかのように大きく目尻を吊り上げていた。
母に背中を押され、僕は病院の建物を出た。出口の先は、莉桜が案内してくれた中庭に繋がっていた。
怒った顔のままの母は、僕の肩を掴んで自分に向き合わせると、僕の頬を手のひらで強く叩いた。パシン、と乾いた音が響く。
「痛っ」
ジンジンと痛みが広がっていく。母に叩かれたのなんて、記憶する限り初めてだ。
「自分のしたことは、ちゃんと分かってるんでしょ?」
問いかけられて静かにうなずいた。
「……そう。それならわたしから言うことは無いわ。しっかり反省なさい」
厳しい声でそう言って、母はほんの少しだけ表情を和らげた。
母はそういう人だ。昔から僕たちのことを頭ごなしに叱ったりはしない。何が悪かったのかを自分たちで考えさせる。そして十分反省させた後には……
「はい、これ」
温かい缶コーヒーが手渡された。知らない間にこれでもかというぐらい冷えていた手に、じんわり熱が伝わる。
子どもたちが十分反省したを確認すると、こうして優しさを見せる。