冗談を言っているのかと思ったが、どうやら本気で衝撃を受けているようだ。

 ともかく、冷えた身体を温めたいというのは僕も同意見だったので、そのまま海沿いを歩きながらファミレスか何かがないか探すことにした。
 だが、そこそこ歩いてみても、意外に入りやすそうな店が見つからない。このまま駅に戻った方が良いのではないだろうか、と電車の時刻を調べながら思う。莉桜は部活だったことにしたら大丈夫だと言ったが、やはり彼女の母親を心配させるわけにいかない。


「なあ莉桜……」


 僕は少し後ろを歩いていた彼女を振り返った。

 どきりとした。

 莉桜の足取りがよたよたとしていて、顔はいつもより青白いように見えた。恐らく、寒さのせいではない。


「莉桜……? どうした!?」

「大……丈夫。すぐ治まるから……」

「いや大丈夫じゃないだろ」


 莉桜は胸の辺りを押さえていた。押さえながらその場にしゃがみこむ。

 ──なぜ莉桜の様子をもっとちゃんと見ていなかったんだ。どうしてこんなに歩かせたんだ。

 そんな後悔が、一気に頭の中に押し寄せてきた。






 数時間前には中庭までしか入らなかった大病院。その廊下に一人、不安な気持ちでいっぱいになりながら立ち尽くすことになるんて、さっきは全く想像していなかった。

 あの後、莉桜は苦しそうな表情のまま力が抜けたように倒れてしまい、僕は半分パニックになりながら救急車を呼んだ。119番にかけたのは初めての経験だった。自分でも何を言っているかわからないぐらい狼狽えていた僕から正確に情報を聞き出したのだからさすがはプロだ。

 救急車を呼んだ場所から比較的近い救急病院であることや莉桜のかかりつけ病院であることが考慮されたのか、この病院に運び込まれることになった。もちろん付き添いの僕には色々と説明が求められた。

 そしてその役割が終わって追い出されたわけだが、廊下に備え付けられた長椅子に腰を落ち着ける気にもなれず、こうして莉桜のいる診察室の方を意味もなく眺めながら立っているのである。