なるほど、確かに先ほどとは打って変わり、感覚的でちょっと文学的な話だ。そして彼女の言うよう文系でかつ文芸部員の僕としては、この説が一番好みだと思った。
「危険だからこそ美しい、か」
息を吐きながら呟くと、莉桜とまっすぐ目が合った。
僕の目に彼女が美しく映るのは、まるで今にも弾けて消えてしまいそうな危さを孕んでいるからなのだろうか。
「……」
目が合った状態のまま、お互い時が止まったように動けなかった。
僕は何かに操られるようにゆっくりと、莉桜の頬に手を伸ばす。冷えた指先触れてよいものかと思考が追い付いて一瞬動きを止めたが、莉桜は僕のその手を掴んで自分の頬にぴたりと当てた。
「あは、冷たい」
「……じゃあ離してくれ」
「ううん、私が温めてあげる」
莉桜はそう言って、薄く目を閉じる。
この雰囲気は良くない、と思った。彼女の桜色の薄い唇が、嫌でも視界に入ってくる。
少しこうやって触れただけで、理性の糸がこうも緩むとは、自分でも予想外だった。
見えない何かに引き寄せられるように、僕は彼女に顔を近づける。あと数センチ。緩んだ理性に期待することはもうやめていた。だが……。
「へくしっ」
莉桜は突然顔を背けたかと思うと、口を押さえてくしゃみをした。
何度かくしゃみを繰り返して視線を僕に戻した彼女は、明らかに「やってしまった」という表情をしていた。
「え、えっとー……。そ、それにしても寒いね! 海が近いと風が強くて寒さ倍増してるのかな。何か近くに温まれる海の家とかあったら入りたいな~」
マフラーをまき直しながらわざとらしく言う莉桜に、一気に脱力感が襲ってくる。
残念なような、それでもホッとしたような。
「海の家は海水浴シーズンしかないぞ。砂浜に立てる仮説の小屋みたいなやつだからな」
「え、海の近くにあるご飯屋さんみたいなところは全部海の家って呼ぶのかと……」