「桜、無駄に上手いな」
「まあね。……その手術予定日は、ちょうど桜が満開になる頃なんだ」
「なら四月の初めってところか」
「良くない? 人生最後の日は桜が満開でした~って。せっかく名前に桜が入ってることだし」
既に莉桜の中では、手術が失敗することは決定事項らしい。というより、彼女自身の望みなのか。莉桜の言う「いつ死んだっていい」には、「いい加減死にたい」というニュアンスがある気がしてならない。
僕は小さくため息をついて、描かれたばかりの桜のイラストに消しゴムをかけていく。莉桜はそれにずいぶん不満そうな顔をするが、他人が一生懸命書いている日誌を季節外れの絵で彩る方が絶対に悪い。
「なあ莉桜」
先ほどからずっと考えていた、彼女に言うべき言葉がようやくまとまった。
きっとどのような言葉をかけても偽善臭くなる。だから、精一杯遠回りにひねくれた方法を選ぶことにした。僕の性格からして、素直に偽善は吐けなかった。
「ゲームをしよう」
日誌から目を離さずに、あくまで軽い調子で。そうじゃないと上手くいかない。
「ゲーム……?」
「まあ簡単に言えばNGワードゲームのアレンジ版だよ。NGワードゲームは知ってるか?」
「あー、合コン定番の」
「合コンなんて参加したことあるのか」
「もちろん! ……ないけれども。でもそのゲームは本当に知ってる。入院中に周りの人とちょっとやったことある」
NGワードゲームとは、小さな紙か何かに参加者分の「NGワード」を書き、自分では見えないように額に貼るなどした状態で会話をして、その会話の中で自分の「NGワード」を言った人が負け。というものだ。大抵は「マジで」とか「ヤバい」とか、思わず言ってしまいそうな言葉を選ぶ。
しかし入院中に周りの人とそんなゲームをしていたとはいったい。