莉桜はしばらくぽかんとしていた。
 それから戸惑ったように乾いた笑い声をあげた。


「あっはは、幼なじみにはお見通しだって?」


 冗談めかした言い方だったが、僕は真剣な顔のままうなずいた。
 すると莉桜ははあっと大きく息を吐いて、張り付けたような笑みを消した。そして短くはっきり答えた。


「行く」


 学校自体休むことが多いだけあって、授業をサボることへの抵抗感はそこまで無いようだ。

 そして自分で言い出しておきながら抵抗感がすごい模範生の僕は、とりあえず何か良い感じの言い訳を考えておこうと思った。






「佑馬と一緒に病院行くなんて、何か変な感じ」


 学校ではチャイムが鳴って、五限目の授業が始まる頃。僕たちは人のまばらな路線バスで揺られていた。
 莉桜が行きたいと言った場所は、彼女が昔から繰り返し入院していて、亡くなった友達との唯一の思い出の場所。すなわち病院だった。

 制服姿の男女が学校のある時間帯にうろついては変に思われるだろうかと心配したけれど、今のところすれ違う人から不審そうな目でじろじろ見られることはない。授業をサボる高校生なんて、さして珍しい光景でもないのかもしれない。
 後ろから二番目の二人掛けの席に座り、流れていく外の景色を見ていると、莉桜が僕の肩にもたれかかってきた。


「莉桜」

「んー?」

「くっつきすぎだ」

「良いじゃん」

「言っておくけど、こういうことされると勘違いする男もいるからな」


 僕以外に親しくしている男友達がいないから、距離感の測り方が下手なのだろう。そう思って忠告すると、莉桜は呆れたようなため息をついた。