莉桜が堪えきれなくなったように顔を伏せた。声を苦しそうに詰まらせている。それでも涙はどうにか流さずに耐えていた。
「誰も見てないんだ。泣いてもいいのに」
僕がそう言って背をさすると、彼女は小さく首を振る。
「だめだよ……。一回泣いたらそのままずっと止まらなくなっちゃいそうだもん」
「……そうか」
普段の莉桜は、決して弱そうには見えない。
だけど、彼女がそのまま静かに消えてしまいそうだと感じる瞬間が、確かにある。
一人しかいない教室でぼんやり外を眺めていたときの横顔だとか、僕の部屋で思い出話をしてほんのり頬を染めたときだとか。それから今とか。
自分でもそう感じるときの基準はわからないが、どうしても胸がざわざわする。
「なあ莉桜。午後の授業、サボってみないか?」
「え?」
しばらく経ってようやく落ち着きを取り戻し、ペットボトルのお茶を飲む莉桜に僕は言った。
「サボるって、二人で?」
「うん」
「佑馬もサボるってこと?」
「だからそう言ってる」
「佑馬真面目なのに、今まで授業サボったことなんてあるの?」
「無い。これが初体験だよ。わくわくするな」
「あは、全然わくわくしてる顔じゃないじゃん」
ずっと苦しそうな表情をしていた莉桜が、ここにきてやっと心から表情を緩めた。
良かった。彼女に苦しそうな表情はやっぱり似合わない。
「で? サボタージュ初心者佑馬くんは、高校生の大事な授業時間を使って何をするつもり? ゲームセンターでも行くの?」
「いや……」
僕は飲んでいたお茶のパックを折りたたみながら答える。
「莉桜の行きたいところに」
「えー、言い出したくせに丸投げ? 佑馬は友達少ないから知らないかもしれないけど、それやると嫌われるんだよ」
「友達少なくても知ってるよ。だけど君には、今すごく行きたいところがあるんじゃないか?」