莉桜に生きていたいと言わせてみせる。思わせてみせる。僕のその思いが暗に非難されているのだとわかった。

 何か必死になってるみたいだけど、いい迷惑だよ。そんな風に言いたいのかもしれない。
 僕自身だって、死と隣り合わせで生きている彼女に希望を持って欲しいなんて願うのは自分のエゴなのではなかろうかと悩んでいる。今もこの瞬間も。

 だけど……。


「本当にそう思うのか?」


 尋ねたその声は、自分でも少しびっくりするぐらいには、強かった。


「希望を持つのは馬鹿馬鹿しいか? あーちゃんとかいうその友達が治りもしない病気を抱えながらも前向きな願いを持っていたのは、君には滑稽に見えたか?」

「……」

「違う。君はうらやましかったんだ。死の恐怖に押しつぶされず、希望を口に出せるその子のことが」


 どうしても諦める方向にしか考えられない自分と違って、その友達は、莉桜にとって目がくらむぐらいに眩しかったのだろう。

 希望を持ってようがいまいが、関係なしに死んでしまう。その現実を目の当たりにしたから気分が沈んでいる。莉桜は多分、そういう話をしたかったのだろう。
 だけど彼女が今抱いているのはそんなややこしい感情ではないのだ。ただ単純に──


「大好きだった友達がいなくなって、辛かったんだな。悲しかったよな」


 たとえ一時でも心を通わせた友人に、もう二度と会えない。
 例えば小学校の同級生とか、その後の人生で二度と会うことのない友人なんてのは、きっと数えきれないほどいる。だけどそんなのとは全然意味が違う。
 ふと思い出して、きっとどこかで楽しく生きていることだろうと思いを馳せることさえできない。思い出すたびに、もうこの世のどこにもいないのだと胸が締め付けられる。

 幼い頃から何度も考えたことだから、生々しく想像できる。本当に何度も考えた。

 もし、莉桜がいなくなってしまったら……と。


「っ……う……」