様子がおかしいと気が付いたときからもう何度も聞いている。だけど答えはいつも同じだ。
 彼女は静かに微笑んでこう言う。


「佑馬には関係ないから」


 別に何もないよ、とは言わない。自分は本調子でないことも、その原因もちゃんと自分でわかっている。その上でこんな風に言われてしまえば問い詰めるのも気が引けるので、僕は毎度「そうか」とうなずいてそれ以上は聞かない。
 そのうち莉桜の方から話してくれる気になるのを期待して。

 ……だけど、もう我慢できなかった。


「関係ないって何だ」

「……そのままの意味だよ」

「僕は愚痴をこぼす相手にすらしてもらえないのか?」


 どんな弱音だって、どんなにくだらないことだって、莉桜の話は全部聞きたい。

 聞かせてくれよ、莉桜。


「……本当に、佑馬には関係ない話」


 莉桜はふいと目を逸らして、胸の辺りでぎゅっと拳を握った。


「でも、うん。お弁当食べながら独り言を言ったら、耳に入っちゃうよね」





 独り言を言ったら、耳に入っちゃうよね。そんな風に言った割に、その独り言はなかなか始まらなかった。
 屋上へと繋がる階段に座って(莉桜は屋上に行きたがっていたけどさすがに寒すぎると止めて、ここで妥協してもらった)黙々と弁当を食べている。


「……」


 あまりせっつくのもどうだろうと思いつつ、僕はちらちらと横目で莉桜を見る。
 その視線に気付いたのか気付いていないのか。彼女は虚ろな目を前に向けたまま、義務のように咀嚼して飲み込んでを繰り返す。
 弁当箱の中身が七割ほど片付いた頃、ようやくぼそりと言った。


「この前病院に検査受けに行ったら、あーちゃんがいなかった」

「あーちゃん?」


 初めて聞く名前だ。
 独り言という体でいくためなのか、莉桜は僕の言葉に反応するというより、小説のモノローグ部分でも音読するような淡々とした口調で続ける。