人間がどうあがいたって、努力したって、時の流れを止めることはできない。

 気が付けば年が変わり、冬休みもとっくの昔に終わった。だけど莉桜とのNGワードゲームは終わっていない。──すなわち、まだ彼女から「これからもずっと生きていたい」という言葉を引き出せずにいる。

 ただ幸いにも、莉桜は最近定期的な検診以外で学校を休んだりはしていない。状態は落ち着いたまま、穏やかな毎日を送れているようだ。この前も校内模試で一位を獲得し、僕の元へ大いに自慢しにくるなどした。

 そんな健康面では現状を維持しているように見える彼女だが、今週に入ってから少し様子がおかしくなった。


「莉桜、次移動教室だぞ」

「んー……」


 声を掛けても、このような聞いてるのか聞いていないのかわからないような返事しか返ってこない。というか立ち上がる気配を見せないからたぶん聞いてないのだろう。

 手を引っ張って無理やり立ち上がらせ、どうにか授業は間に合った。だけど授業中も上の空のように見えたし、先生に指名されてもしばらく気付いていなかった。らしくない。まったくもってらしくない。


「莉桜、昼休みだぞ」


 授業が終わってもぼんやり外を見たまま動こうとしない莉桜に、僕はため息をつきながら声を掛ける。それでも彼女は動かない。


「りお!」


 少しばかり苛立って強めに名前を呼ぶと、莉桜はびくりと肩を震わせて、やっと顔を上げた。


「あ……ごめん、何?」

「昼休み。弁当は?」

「ああ、うん。食べるよ。食べる食べる」


 莉桜はそう言って、視線を足元にやり、キョロキョロする。


「あれ、私の鞄は?」

「……鞄は教室だろ? ここは物理室だ」

「……そうだった」


 のろのろと立ち上がる莉桜を見ながら、僕は大きくため息をついた。


「なあ、何かあったのか?」