「そういや最近、新しく山本さんって人が担当になったんだが……」


 お互い近況報告をするうちに、卓がふと思い出したようにぼやいた。


「若い女性で、どうも気が合わないんだよな。あの人、仕事はできるが言い方がキツ過ぎる」

「……山本さんって、山本加菜さんではなく?」


 卓の小説を出版している会社の山本という苗字の女性……と聞いて、佑馬は自分の担当編集が頭に浮かぶ。
 しかし彼女はあどけなく可愛らしい容姿で、常に甘えたように話す小悪魔系の女性。間違っても卓のような男に「言い方がキツい」と言わしめるようなタイプではない。

 他に山本さんという女性がいたのだろうとかと思ったが、卓はあっさり「ああ、そうだ」とうなずいた。


「お前の担当も確か山本さんだったか?」

「そのはずですけど……。彼女、ふわふわして可愛らしい人では?」

「可愛らしい……? 顔は綺麗だが、それで浮かれた新人作家の男たちが何人もこっぴどくフラれてるぞ。トラウマになるレベルにこっぴどくな。あの人、かなりの男嫌いだろ」


 驚いた。加菜を見るたび、彼女はいったいこれまで何人の男たちを骨抜きにしてきたのだろうと思っていたのに、むしろ痛い目を見せられていたとは。
 卓の話を聞く限り、加菜が佑馬の前で見せている態度はだいぶ珍しいもののようだ。特定の誰かに見せる姿など、ほんの一面にすぎないということだろう。


「それはそうとユウ、お前、実家には帰ってるのか?」

 この前会ったときの加菜の態度をぼんやりと思い出していると、卓は唐突に話題を変えた。自分で話し始めておきながら、もう加菜のことから興味が逸れたらしい。
 佑馬はグラスを置いて、静かに首を振る。


「今年は正月も用事が重なって、ずっと帰れてないですね」

「……墓参りには?」


 幼なじみの命日が近いこの時期、例年なら実家に戻っている。それを知っているから今日こうして飲みの誘いに応じたことを不思議に思ったのだろう。

 佑馬はちょっと苦笑いして肩をすくめる。