明るく賑わう繫華街の端の方に、佑馬の行きつけの居酒屋はある。

 年季の入った外観に反して中は新しく、安価で味も良い。酒を飲める歳になって以来ずっと通っている。顔なじみの店員は佑馬を見ると、待ち合わせ相手はもう来ていると言って半個室の席へ案内してくれた。


「遅くなってすみません卓さん」

「打ち合わせが長引いてたんだろ。気にするな」


 待っている間、料理に手を付けるでもなくテーブルに原稿用紙を広げていたは、佑馬の声に視線を上げた。

 高島卓。

 佑馬たちが高校一年生だったときの文芸部部長。現在は佑馬の同業者だ。


「卓さん、仕事はどうです?」

「どっちの話だ?」

「どっちも」


 同業者とは言っても、卓は佑馬と違って専業の作家ではなく兼業作家だ。一般企業──それも、皆が羨む一流企業に勤める傍ら執筆している。
 卓は原稿用紙を鞄にしまいつつ自嘲気味に笑った。


「会社の方は驚くほど順調だ。無事昇進したしな。だけど小説の方はお前と違ってからっきしだよ」


 そして、瓶ビールをグラスに注ぐ佑馬を見てにやりと笑う。


「にしてもユウ、お前は本当にすごいな。サイン会も整理券は即終了の大盛況だったって話じゃないか」

「ありがたいことに」

「新刊も読んだ。高校のときから良い話を書いてたが、疎遠になってた数年でここまで差を付けられていたとはな」


 卒業以来会っていなかった卓と再会したのは二年前。出版者主催のパーティーでのことだった。

 その頃佑馬は業界でもまださして話題になっておらず、出席者リストから櫻田佑馬の名前を見つけた卓は本気で驚いたらしい。そして数年ぶりに再会を果たすと想像以上に話が弾み、それ以来二カ月に一回ぐらいのペースでこうして会うようになった。

 始めは高校時代と同じ呼び名を使っていたが、今はそれぞれ“ユウ”“卓さん”と呼び合い、昔よりむしろ仲良くなっている。