「じゃあ、お望み通り心配してあげるよ。……そろそろ死ぬだって? どうして? なぜ突然そんなことを言いだすんだやめてくれよ莉桜」
「あは、すっごい棒読み」
「僕に演技力を求めないでくれ」
「やり直し。テイク2!」
莉桜がいつもこのようなノリで話すから、僕は未だに騙されているのではないかと思うことがある。
だけどまぎれもない真実なのだ。莉桜は生まれつき、心臓に欠陥を抱えている。
心臓の弁が上手く機能していないのだと、本人が何度か細かく詳しく解説してくれた。完全な治療ができないということも聞いている。
実際彼女は幼い頃から入院を繰り返しており、学校は休みがちだった。しかし頭が良いのと中学の先生が気を利かせて内申点をいじってくれたおかげで、無事僕と同じこの高校に在籍できている。
テイク2と言われたのを無視してもう一度日誌の記入を再開すると、莉桜はつまらなそうに僕の消しゴムを取りあげた。そしてその消しゴムを弄びながら言った。
「手術がねー、決まったんだ」
「……ああなるほど。その手術が失敗したら『死ぬかもしれない』ってことか」
「そう。手術はこれで4回目になるのかな。聞けば心臓の手術っていうのは繰り返すほど危険になるそうだよ……っと、ありゃ取られちゃった」
隙を見て莉桜の手から消しゴムを奪い返した。そして我ながら絶対に読めないだろうと思われる不格好な字を極力丁寧に修正していく。
すると今度は筆箱の中からシャープペンシルを奪い取られた。くるくるとペン回しをして遊び始める。器用なものだ。
それから彼女は何を思ったのか、僕が必死に考えるもまだ半分も埋まっていない日直日誌のフリースペースに花のイラストを描きだした。花弁の先が割れたこの特徴的な形は……。